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2013年1月17日 (木)

METライブビューイング「仮面舞踏会」

演出の面白さと豪華な歌手に満足。
METライブビューイング新春第2弾「仮面舞踏会」に行ってきました。

ヴェルディ「仮面舞踏会」  MET2012年12月8日上演

指揮: ファビオ・ルイージ
演出: デイヴィッド・アルデン

グスタヴォ: マルセロ・アルバレス
アメーリア: ソンドラ・ラドヴァノスキー
アンカーストレム(レナート): ディミトリ・ホヴォロストフスキー
アルヴィドソン夫人(ウルリカ): ステファニー・ブライズ
オスカル: キャスリーン・キム

メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団

このオペラのオリジナルはスゥエーデン国王グスタヴォ3世暗殺事件を題材にしていましたが、検閲当局の許可が出ず、イギリス植民地時代のボストンに舞台設定や登場人物が変わったのは御存知の通り。
今回はオリジナル版での演出です。

1920年代~30年代の時代設定。衣装は実にお洒落。
上下左右が傾斜しているボックス型舞台の中で物語が進行してゆきます。
その天井画と開演前の舞台幕には「イカロスの墜落」の古典画が描かれております。
アテネの大工の息子イカロスは父と共に牢獄に閉じ込められていましたが、父の製作した羽を身体につけて脱出に成功します。父は息子に「高すぎるところ、低すぎるところは飛んではならない」と命じますが、イカロスは輝く太陽にあこがれて高く飛び過ぎ、太陽熱で翼の蝋が溶けて海へまっさかさまに墜落、死んでしまうという伝説です。

演出のアルデンは主人公の国王クスタヴォをイカロスになぞらえているようです。
国王にも関わらず臣下の妻アメーリアへの思いを抑えきれずに行動し、死んでしまうグスタヴォは、戒めを忘れたイカロスと同じ…。そういう意味でしょう。

「グスタヴォは国王であることに嫌気がさしていて、もっと自由に、己に忠実に生きたがっている」とは、アルデン自身がインタビューで話していたグスタヴォ像。
その言葉通り、オペラの前半は自由人のようなグスタヴォが描きだされます。
判事から処罰を求められた占い師アルヴィドソン夫人のところへ実際に出かけて占ってもらおう…と言いだして合唱になる場面など、まるでブロードウエイミュージカルのような賑やかで陽気なダンス。アメリカの舞台の楽しさが実感できました。

後半はグスタヴォとアメーリアの密会がバレてから夫アンカーストレムの怒りと嫉妬が燃え上がり、暗殺に至るまでのドラマが緊張感ある中に展開してゆきます。
アメーリアだけは動きが少なく、静かに輝く存在。これがまたイカロスにとっての太陽のように、グスタヴォにとってあこがれの存在なのをよくあらわしている気がしました。

グスタヴォ役のマルセロ・アルバレス。張りのある美声です。
最初から出ずっぱり状態ですがパワフルに動き、歌ってます。
アメーリアのラドヴァノフスキーもボリューミーな体格だから、カップルとしては声も含めてバランスが取れてましたね。
でも、指揮のルイージが言ってましたが、大きな声で朗々と歌うだけでなくて、丁寧に旋律を演奏し、ピアノでもきちんと表現する、という音楽になっていたところが表現に幅をもたらしていました。メリハリが効いていて好感。

アンカーストレム役のホヴォロストスキーは銀髪が相変わらずカッコイイ。
「忠実にして友情に結ばれた臣下」というイメージピッタリです。
アメーリアの不倫をなじる場面でも、怒り一辺倒ではなく「嫉妬」に燃え狂う…みたいな感情がよく出てました。

METの怪優…なんて呼んだら怒られちゃいますが、占い師を歌ったステファニー・ブライズがまた凄い。ド迫力で震えてしまいそうな存在感は今回もバッチリ。この人バロックからワグナーまでOKという、その歌唱にも毎度驚かされます。

アジア系アメリカ人ソプラノ、キャスリーン・キムは小柄で軽やかな身のこなしでオスカルを好演。羽が生えていたり、タバコ吸ったり、中性的な存在とし描かれていました。ソプラノでズボン役というのもオペラでは珍しいけれど、このオスカルはやっぱりメッツォじゃピンときませんね。喜劇的なオスカルの歌とシリアスな暗殺グループの歌が合体するところなんぞ、まったくヴェルディの手腕には感心します。

毎度そうですが、METライブビューイングでは幕間の出演者インタビューや舞台転換やら興味深い要素もオペラと一緒に楽しめます。今回はまもなく上演されるドニゼッティ「マリア・ステュアルダ」の稽古現場も見せてくれました。主演のジョイス・ディドナートや演出のマクヴィガーのインタビューもちゃんとありました。
現場を知るのは面白いのですが、客席で舞台を見ているだけではわからないことがたくさんあります。
それをあえて見せて伝えてくれるのがMETライブビューイング。
この発想は今迄の劇場文化には無かったものです。

アメリカだから出来る現実でもあるでしょうが、オペラが「総合芸術」である事実をこれほど的確に示してくれるエンタテインメントは大したものです。

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コメント

朝岡様
私も息子小4を同伴して見てきました。ブログに書かれていた通り、すべてに感嘆と喜びを感じました、息子も初めての仮面でしたが、音楽にも満足してくれました。このメットの試みは本当に画期的です。こういった柔軟な考えで、広く普及してほしい古典芸術です。昨年暮れに、朝岡さん出演のこうもりを拝見。解説でしか今まで拝見したことがなかったので、こんなに演技もお上手だなんて天は二物も三物も・・あたえられたのですね!とても楽しかったです。今度その時演出だった太田さんが風の丘HALLのカルメンを演出してくださることになりました。85席の小さな劇場で芝居の要素をクローズアップできるオペラをやっています。よろしければ、一度ご覧ください。別の新しいオペラの一面を感じられるのではと思います。これからも、オペラに敷居を感じている人たちへオペラの楽しさ魅力を伝えてくださることをとても楽しみにしております。よろしくお願いいたします!!

投稿: 風の丘mimi | 2013年1月17日 (木) 17時18分

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