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2013年11月

2013年11月11日 (月)

「かの名はポンパドール」

佐藤賢一さんの新著「かの名はポンパドール」(世界文化社)読了しました。
佐藤さんと言えば「小説 フランス革命Ⅰ~ⅩⅡ」が有名です。大学院で西洋史学を学び1999年に直木賞受賞。フランスもの得意ですから、今回の本も期待して読みました。

私は18世紀好きなんですね。
18世紀は特別な時代で、古い王権の権威や迷信の日々と近代的な思想や主張が重なる世紀。絶対主義王制華やかりし日々からフランス革命とナポレオンの時代が混然一体となった世紀が18世紀。
それゆえ歴史好きを惹きつけるのですね。

しかもフランスと言えばヨーロッパ宮廷文化の精華。
全ヨーロッパの王侯貴族の憧れの的でした。
その本拠たるベルサイユ宮殿を築いたのがルイ14世。その孫がルイ15世。
その最高の寵姫となったポンパドール侯爵夫人の生涯をつづったのがこの本です。

ポンパドール侯爵夫人。本名ジャンヌ・アントワネット・ポワソン。1721年12月29日に平民の娘としてパリに生まれます。母の愛人が事実上の養父となってあらゆる教育と芸術の素養を身につけ19歳で領主貴族と結婚、娘も生まれました。
やがて国王ルイ15世と出会います。…と言っても、自分でその機会を作ったのがすごい。
桃色の馬車を造らせ、青色のドレスを着て手綱を自ら握り、ルイ15世が狩をする森へ出かけ国王の目に触れるように馬車を走らせたと言います。目論見通り国王と出会うのに成功。時にルイ15世34歳。その美貌と知性と快活さで王を虜にしたポンパドール夫人は、実質王妃と並ぶ「フランス一の女」となったのです。

そのあたりの過程が豊富な資料をもとに興味深く綴られています。
本の冒頭にポンパドール夫人の肖像画の数々とルイ15世の肖像がカラーで収められていますが、夫人の美しさには改めて感じるものがあります。
外観だけでなく、文化芸術に詳しく、知性と機知に富み、気品高く優雅、話していてとにかく楽しい…貴族多しといえどもこういう人はいなかったでしょうね。

しかし、宮廷内も決してすべてが彼女を支持したわけではありません。
王を取り巻く貴族や貴婦人の「反ポンパドール派」との確執と対決。これも面白く読みました。貴族筆頭の実力者や政治の中枢を支える大立者がある時はやんわりと、またある時は卑劣なほど直接的にポンパ―ドル夫人に圧力をかけてくる。権謀術数うずまく宮廷の中でいかに生き残るか…。寵姫だから安穏としていられるなんて言うのは大間違いで、特に平民出身のポンパドール夫人には当初から反感が強かったようです。驚き、悩み、苦しみつつ彼女が対応していく様子が丁寧に描かれています。

やがて政治のフィールドでも国王に助言をするようになり、その存在感を増すポンパドール夫人。しかしいつしか「肉体関係」の寵姫から「信頼関係」の寵姫へと2人の関係は変わる。ここのところも大変興味深いです。

ルイ15世に夜の営みを止めたいと申し出る場面は、実際にこの小説で読んでいただくとして、私が「良いね!」と思ったのはポンパドール夫人が実弟に事情を話す場面です。
それまで王の寝室と繋がっていた寵姫専用の部屋からヴェルサイユの他の部屋へ引っ越すことになって、それが弟には理解不能になる。そこでこんな会話が交わされます。

『僕に説明できないなら、誰に説明できるというんです。誰だって、わけがわかりませんよ。というのも、寵姫の座を失ったわけじゃないんでしょう。ええ、それならヴェルサイユを出て行くことになる。ただ部屋を替えただけなら、陛下との関係は変わらないはずだ。それなのに寝室は別だなんて……』

 

『だから、もうそういう関係ではなくなったのです』

 

『えっ?』

 

『わたくしは嫌なのです、あれが』

 

『…………』

 

『これからは愛情でなく、友情で陛下にお仕え申し上げます。そのように陛下とも、すでに約束ができております』

するとポンパドール夫人の弟はこう言います。

『わけてもルイ15世といえば、世に聞こえた艶福家であられます。愛情でなく友情でなんて打ち上げても、言葉通りになんかいくはずがない。身も蓋もない言葉を使えば、身体の関係なくして、男の心をつなぎとめられるか、ということですよ』

つづきはこの会話。

『わたくしも同感です。友情なんて容易な話ではない。男と女には愛情しかありえない。それが普通です。ええ、わたくしだって怖いのです』

 

『それじゃぁ……。も、もう、あきらめているということですか』

 

『いいえ、そうではありません。これは新しい挑戦なのです。ええ、抱かれるだけが女の価値じゃないはずだもの。それなしでも、いる意味があるはずだもの。ええ、ええ、わたくし、挑戦してみます。ポンパドール侯爵夫人という、新しい女の形の創造に』

 

どうです?!
その意気や良し、じゃありませんか。
美しいだけの、ただの寵姫ではなかったポンパドール夫人の魅力はここにあったのか!…と目からウロコの気分でした。

小説の中の真実…。
ロココの華として称賛され、今に名を残すポンパドール夫人。
まさに『果敢な生涯』です。

美しき人の生き方に魅了されました…。

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2013年11月 4日 (月)

2014年ザルツブルク聖霊降臨祭音楽祭

いよいよ11月。
ここから年末年始はあっという間なんですよね。
カレンダーとか年賀状とか準備する時期かな。

そして来年の事が現実味を増してくるのです。特に音楽祭ファンにとってはね。

ロッシーニ大好きの私にとって、8月のペーザロはもちろんですが来年6月にザルツブルクで開催される聖霊降臨祭音楽祭も聴き逃すわけにはまいりません。
この音楽祭、あのスーパー・ソプラノ、チェチーリア・バルトリが音楽監督を務めていて、来年のテーマは「ロッシニアーモ」。つまりロッシーニ尽くしなのです。

プログラムを御紹介しましょう。
6月5日から9日までの5日間の日程ですが、

6月5日はモーツァルトハウスで19時開演「チェネレントラ」
指揮はジャン・クリストフ・スピノジ。演出はイタリアの駿英ダミアーノ・ミキエレット。
歌手陣が豪華。チェネレントラはバルトリ。王子ドン・ラミーロはチューリヒ歌劇場を中心に活躍するジャビエル・カマレナ。日本では知名度いまひとつですが、私はチューリヒで何回か観てます。バルトリとも共演していてなかなかのベルカント・テノールです。王子の家来ダンディーには今夏ペーザロでウィリアム・テルを歌ったニコラ・アライモ。継父ドン・マニフィコはエンツォ・カプアーノ。王子の家庭教師アリドーロはウーゴ・グアリアルド。

続いて6日は15時からマリオネットシアターで「セヴィリアの理髪師」。ザルツブルクのマリオネットシアターは一度は訪れたい場所です。「人形劇だろ?」なんて馬鹿にすることなかれ。チェコやオーストリアではマリオネットは伝統の芸術で、特にザルツブルクの劇場では名作オペラをマリオネットで鑑賞できる場所なのです。惚れ惚れするほどリアルで芸術的な人形の動き!この「セヴィリアの理髪師」はジュゼッペ・パターネ指揮の録音を使います。ロジーナはバルトリ。フィガロはレオ・ヌッチ。伯爵はマテウッツィが歌っています。

その夜はモーツァルテウムのホールでカウンター・テナーのフランコ・ファジョッリのコンサート。ロッシーニの「パルミーラのアウレリアーノ」、マイアベーア「エジプトの十字軍」からのアリアがプログラムされています。

6月7日は11時からモーツァルテウムのホールでデイヴィッド・フライのピアノリサイタル。
ロッシーニ、リスト、シューマン、バッハのプログラム。15時からマリオネットシアターで「セヴィリアの理髪師」。19時からモーツァルトハウスでオペラ「チェネレントラ」2回目の公演があります。

6月8日は凄いです。
12時から祝祭大劇場で「スターバトマーテル」。指揮はアントニーノ・パッパーノ。ソプラノ:ストヤノーヴァ、メゾ:ガランチャ!!、テノール:ベチャワ!バス:アーウィン・シュロット!!

17時からモーツァルトハウスにて「小ミサソレムニス」。同じくパッパーノ指揮。ソプラノ:エヴァ・メイ。メゾ:カサロヴァ、テノール:ローレンス・ブラウンリー、バス:ミケーレ・ペルトゥージ。

そして20時から祝祭大劇場で「ロッシーニ・ガラ」。これがまたオールスターメンバです。
指揮はアダム・フィッシャー。歌手は、アグネス・バルツァ、C・バルトリ、テレサ・ヴァルガンツァ、モンセラート・カヴァリエ、V・カサロヴァ、モンセラ・マルティ、イルブラント・ダルカンジェロ、ホセ・カメレーナ、ホセ・カレーラス、カルロス・ショソン、A・コルベッリ、レオ・ヌッチ、ミケーレ・ペルトゥージ、ルジェッロ・ライモンディ、アーウィン・シュロット…ですって。なんだかロッシーニの紅白歌合戦みたいな陣容ですね。

終演後の22時半からはカール・ベーム・ザールで「ロッシーニ大晩餐会」もありますが、こちらは早々にチケット売り切れです.

そして最終日の9日は11時からモーツァルテウムのホールで今をときめくロッシーニ歌手ジョイス・ディドナートのリサイタル。ヴィヴァルディやフォーレ、ロッシーニ、シューベルト、シューマン…多彩なプログラムが楽しみです。
15時からマリオネットシアターの「セヴィリアの理髪師」。16時から音楽祭の最後を飾る「オテッロ」。ヴェルディじゃありませんよ、ロッシーニの「オテッロ」。祝祭大劇場です。
指揮はスピノジ。オテッロはジョン・オズボーン。デズデーモナがバルトリ。ロドリーゴはエドガルド・ロッカ。ヤーゴはバリー・バンクス。

これだけロッシーニの豪華なメニューがそろうのもペーザロ以外では珍しい。
バルトリがペーザロには出演しないだけに、彼女のロッシーニに対する思いが感じられる音楽祭です。
初夏のザルツブルクは新緑が実に美しいはず。サイクリングで「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台になったヘルンブルン宮殿など行きつつ、ロッシーニ三昧できたら最高。
ちなみに私、もうチケット購入しましたよ。ロッシーニ・ディナーは残念ながら売り切れでした。あ~ぁ。
チケットはオンラインでザルツブルク音楽祭のHPから購入できます。

ザルツブルクと言えば夏の音楽祭が有名ですが、来年の聖霊降臨祭音楽祭はロッシーニアンにとっては外せません。このところご無沙汰していたザルツブルクが俄然楽しみになってきました。

来年の事を語っても鬼は笑いません。ロッシーニ好きが笑うのです…。

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