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2014年4月

2014年4月28日 (月)

ジャルスキーのコンサート

フランス人カウンター・テナーのフィリップ・ジャルスキーとヴェニス・バロック・オーケストラの演奏会に行きました。私の大好きなバロック。当時のオペラの華だったカストラートが現代に甦った歌…フィリップ・ジャルスキーの芸に酔いました。

フィリップ・ジャルスキー&ヴェニス・バロック・オーケストラ
2014年4月25日 東京オペラシティ コンサートホール タケミツメモリアル

 

ポルポラ:歌劇『ジェルマーニコ』序曲
  〃  :歌劇『アリアンナとテーゼオ』より「天をごらんなさい」
  〃  :歌劇『身分の知られたセミラーミデ』より「これほど憐れみ深く貴方の唇が」
ヘンデル:<12の合奏協奏曲>第4番 Op.6-4 HWV322
  〃  :歌劇『アルチーナ』より「甘い情愛がわたしを誘う」
  〃  :     〃     より「いるのはヒルカニアの」

 

ヘンデル:歌劇『オレステ』より「凄まじい嵐にかき乱されながら」
  〃  :歌劇『アリオダンテ』より「戯れるがよい、不実な女め」
  〃  :<12の合奏協奏曲>第1番 Op.6-1 HWV319
ポルポラ:歌劇『ポリフェーモ』より「いと高きジョーヴェさま」
  〃  :     〃      より「愛しの人を待つあいだ」

 

アンコール
ヘンデル:「涙のながれるままに」
  〃  :「オンブラ マイフ」

いまやカウンターテナー界の貴公子にして実力・人気とも群を抜くジャルスキーが来日。
今回のプログラムは18世紀前半のロンドンで人気を二分したヘンデルとポルポラのオペラから、カストラートのテクニックと表現力を駆使したアリアを選んで、ジャルスキーが歌いまくるプログラム。その当時ライバルとして火花を散らした両作曲家が歴史に残るカストラート、ファリネッリ(ポルポラ)とカレスティーニ(ヘンデル)のために書いた楽曲の数々です。

会場は女性の姿が目につきます。
アジアツアーで北京公演を終えて来日したジャルスキーはタキシード姿でさっそうと登場。
スマートな体型に甘いマスク。女性に人気なのも納得です。
しかし歌い出すとその声がまた素晴らしい!カウンターテナーとは言いながら、その声はコントラルト並みに高い音域を自在に駆け巡り、全音域にムラがありません。声の輪郭が常にクッキリとしていてアジリタも俊敏そのもの。音程のブレもない。アップテンポの上昇下降音型ではきらめくような音符が連なり、しかもフレーズの取り方が実に上手い。ゆったりした情感を描く歌では、一つの音を弱音~最強音~再弱音…と伸ばすメッサ・ディ・ヴォーチェの美しさにゾクゾクしてしまう。いやはや凄い歌手です。

音の高低だけでなく奥行きや強弱、ひとつひとつの音符の粒や長さまで完璧にコントロールして歌いあげているのに、ただただ驚かされます。

バロックオペラのアリアの多くはダ・カーポ形式ですから、曲の第1節が繰り返されるわけですが、この時のヴァリアンテ(装飾的変更)も見事!適度な意外性と様式美が卓越した声で奏でられるときの心地良さは格別ですね。

プログラム前半の締めくくりだったヘンデル『アルチーナ』から「いるのはヒルカニアの」はとても有名な曲で、ホルンを伴ったオケの音楽と共に展開する華麗なアレグロのアリア。
僕も大好きな曲です。グイグイ人の心を持っていってしまうヘンデルの推進力が冴えるアリアは、それこそカストラートの超絶技巧が散りばめられております。
1曲歌いきるのはさぞや大変だと想像するのですが、ジャルスキーはダ・カーポで第1節に戻ってからがまだ凄い。長いフレーズにヴァリアンテを施して、おまけに最後にホルンと会話するように掛けあって微笑みすら浮かべて歌い終わる。
いやぁ、もう大興奮。やんやの喝采。ヘンデルの時代にカレスティーニが歌ったのはまさにこんな感じだったのか…!?

プログラムが進むにつれてジャルスキーの変幻自在の歌声に客席がどんどん熱くなっていきました。
バロック時代のカストラートはオペラの華であり大スターでしたが、失神者も出たという当時の劇場の空気の片鱗を感じた気がしました。やっぱり男声の高音による超絶技巧と甘い情感は特別だなぁ。同じイタリア・オペラでもヴェルディやプッチーニには決して無い要素。人間の声の芸術をあらためて実感しました。

ヴェニス・バロオク・オーケストラも「イタリア」の要素を随所に感じさせてくれる演奏。
田園を吹き抜けるそよ風のように優しく、夏の午後のつむじ風のようにハッとさせるアクセント、嵐のように情熱的な響きがあったかと思えばルネサンスの庭に咲き誇るバラのように甘い香りの弦のハーモニーもある…。
ジャルスキーとの公演も多いだけに、お互いの呼吸はぴったりで、これがまたアリアの完成度を高めております。

ヘンデルとポルポラのライバル関係の中で生み出された楽曲を、素晴らしい歌手が縦横無尽に歌うというプログラム構成の妙もあって満足度大。
こういう歌手は何十年に一人って感じでしょう。
それを生で聴ける喜び…。

仕事で本来は行けない予定だったのが、急遽時間が空いて当日券買いで行ったコンサート。大当たりでした!

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2014年4月17日 (木)

METライブビューイングの来シーズンラインナップ

映画館でゴージャスなオペラを堪能できるという意味では大好きなMETライブビューイング。
時々伺うのですが、配布されるプログラムに「拍手やブラ~ヴォを歓迎します」と書いてあります。本番のような雰囲気を作りたい主催サイドの意図は理解しますけど、やっぱり少々難しいかもね。
拍手や掛け声は生の舞台に向けてこそ…という気もします。
目の前で生身の人間が繰り広げる演技や演奏に感動した人が、その舞台と一緒になって作る劇場空間。その大事な要素が拍手や掛け声だと思います。
舞台が客席に感動を与え、客席も舞台に感激を与える相互同時進行。拍手は一方通行では本来の意味の半分しか機能しないものでしょう。

もちろん、スクリーンに向かって拍手したって全然かまわないですし、会場の盛り上がりを期待する主催の立場としては、このコメント、分かりますがね…。

さて、先日来シーズンのラインナップが発表されていましたので、ご紹介します。
日付はいずれもMET初演予定日。

●第1作 ヴェルディ 「マクベス」
指揮:ファビオ・ルイージ
演出:エイドリアン・ノーブル
出演:A・ネトレプコ ジェリコ・ルチッチ ルネ・パーペ ジョセフ・カレーヤ
2014年10月11日

開幕はやっぱり豪華メンバーですね。声の饗宴だ!

●第2作 モーツァルト 「フィガロの結婚」
指揮:J・レヴァイン
演出:リチャード・エア
出演:イルダール・アブドラザコフ P・マッテイ M・ポプラフスカヤ 他
2014年10月18日

重量級の布陣です。

●第3作 ビゼー 「カルメン」
指揮:パブロ・エラス=カサド
演出:リチャード・エア
出演:A・ラチヴェリシュヴィリ A・アントネンコ イルダール・アブドラザコフ
2014年11月1日

先日の「イーゴリ公」のメインキャストが今度はカルメンに!

●第4作 ジョン・アダムス 「クリングホーファーの死」
指揮:デヴィッド・ロバートソン
演出:トム・モリス
出演:パウロ・ジョット アラン・オービー ミカエラ・マーティンズ
2014年11月15日

どんな内容なのか興味津々…

●第5作 ワーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
指揮:J・レヴァイン
演出:オットー・シェンク
出演:J・ロイター J・ボータ アネッテ・ダッシュ ヨハネス・マルティン・クレンツレ
2014年12月13日

アネッテ・ダッシュも今やワグナー歌手なんですね!

●第6作 レハール 「メリー・ウィドウ」
指揮:アンドリュー・デイヴィス
演出:スーザン・ストローマン
出演:ルネ・フレミング ネイサン・ガン A・シュレイダー T・アレン
2015年1月17日

METの女王フレミングはこのシーズンはハンナですよ。

●第7作 オッフェンバック 「ホフマン物語」
指揮:イーヴ・アベル
演出:バートレット・シャー
出演:V・グリゴーロ H・ゲルツマーヴァ K・リンジー T・ハンプソン
2015年1月31日

このオペラこそMETの豪華な演出が楽しみです。

●第8作 チャイコフスキー「イオランタ」&バルトーク「青ひげ公の城」
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
演出:マリウシュ・トレリンスキ
出演:「イオランタ」A・ネトレプコ P・ベチャワ A・マルコフ
    「青ひげ公の城」N・ミカエル M・ペトレンコ
2015年2月14日

チャイコフスキーの「イオランタ」はMET初演だそうです。バルトークも新演出。

●第9作 ロッシーニ 「湖上の美人」
指揮:M・マリオッティ
演出:ポール・カラン
出演:J・ディドナート F・d・フローレス D・バルチェッローナ
2015年3月14日

ロッシーニアンとしては、これははずせない!歌手も最高だ。

●第10作 マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」&レオンカヴァッロ「道化師」
指揮:ファビオ・ルイージ
演出:D・マクヴィガー
出演:「カヴァレリア~」M・アルバレス エヴァ=マリア・ヴェストブルック J・ルチッチ
    「道化師」M・アルバレス P・ラセット G・ギャグニッサ
2015年4月25日

アルバレスの2役が楽しみ。

いつもながら舞台と演奏に加えて、インタビューにも期待しましょう。

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2014年4月 8日 (火)

METライブビューイング「イーゴリ公」

久々にMETライブビューイングに行ってきました。音楽は有名だけどなかなか舞台は見る機会がないボロディンの「イーゴリ公」。さすがMETならではの豪華なエンタテインメントでした。

METライブビューイング2013~14 第6作
ボロディン「イーゴリ公」 2014年3月1日上演

 

指揮:ジャナンドレア・ノセダ
演出:ディミトリ・チェルニアコフ

 

イーゴリ公:イルダール・アブドラザコフ
ヤロスラーブナ(イーゴリの妻):オクサナ・ディーカ
ウラジミール(イーゴリの息子):セルゲイ・セミシュクール
ガリツキー(イーゴリの義弟):ミハイル・ペトレンコ
コンチャーコヴナ(ウラジミールの恋人):アニータ・ラチヴェリシュヴィリ
コンチャーク汗:ステファン・コツアン

 

メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団

 

このオペラを書いたボロディンは作品を完成させずに急死しました。書きためてあったスケッチをもとにリムスキー・コルサコフとグラズノフが共同でまとめあげたものが上演されてきましたが、今回は演出のチェルニアコフが独自に物語を再構成して演出も担当しています。一番のポイントは英雄としてのイーゴリ公ではなく、見る者が共感できる人間としてのイーゴリ公に描く意図が明確なこと。音楽が始まる前から幕にイーゴリの大写しになった顔が様々な表情で映写されます。

各幕の構成も大幅に変わっていて、プロローグの出征の場面に続いて、従来第2幕だった捕虜になったイーゴリ公、ウラジミールとコンチャーコヴナの恋、コンチャーク汗とイーゴリのやりとり、ポロヴェツ人の踊りが描かれます。出征の場面のあとに幕画面に戦いに敗れたイーゴリ公と軍勢の運命がシンボライズされた映像が流れて、その後に出現する舞台が衝撃的に美しい!
なんと12000本以上の真っ赤なポピーが咲く花畑で物語が進むのです。
まさにファンタジーの世界。意表を突く演出。チェルニアコフは「ポロヴェツ人のこの場面は理想郷のような世界を作りたかった」と言っていました。対照的にロシアの場面は正統的な現実の20世紀前半のような衣装とセットで進行します。この対比が実に効果的でした。

戦いに敗れ捕虜の身になったイーゴリの悩みと苦しみの幻影の結果として、花畑の中には故郷に残した妻ヤロスラーヴナも登場してきますし、同じ場面でコンチャーク汗との2ショットのやり取りもあれば、有名な「ポロヴェッツ人の踊り」も展開。花畑の中には通路がたくさんあって、そこで多くの若い男女によるダンスが繰り広げられます。この美的センスには驚かされました。さっすがニューヨークだな。

そのあと第2幕はイーゴリ公の留守を守る公国で義弟のガリツキーが乱行を繰り広げ公の地位をうかがおうという不穏な動きとヤロスラーヴナと女たちの苦しみが描かれ、最後は敵が攻めてきてガリツキーが死ぬまでが描かれます。これは従来だと第1幕になっていた部分。第3幕は従来の第3幕と4幕を合わせた構成になっていましたが、イーゴリ公の妻やロシア人たちの描写が主になっていて、ロシアを攻めたポロヴェッツ軍の凱旋やイーゴリのの逃亡を知ったコンチャーク汗がウラジミールとコンチャーコヴァを結婚させてロシアに進軍する場面はカットされています。イーゴリ公が馬に乗って帰ってくるのでなく、ひとり彷徨って荒廃した故郷に戻り、最後はみずから故国の復興にむかって動き出す…ような暗示で幕となりました。

要するにボロディンが未完成で終わったがゆえに物語として一貫性が薄くなったり、イーゴリ公の存在を忘れてしまう弱さを積極的に補って再構築しているのです。
もともとが未完成ですからね。こういう努力もアリですよね。METくらい労力を贅沢に費やせる劇場だからこその面白さでしょう。
以前、従来の構成でこのオペラ観たときは、「なぜタイトルがイーゴリ公なのか、よく分からん」と思いましたものね。イーゴリ公が恋の主人公でもなく、物語の主人公でもない印象が強くて???だった思い出があります。
それを思うと、今回のMET版「イーゴリ公」は確かにストーリーに一貫した流れが感じられるし、イーゴリ公の内面に焦点をあてた物語になっていました。
「こういう手があったか!」と思わせる内容。単なる読み替えとも違うし、小手先のアイデアとも違います。
METのゲルプ総裁が約100年ぶりにこのオペラを上演しようと決めたのですが、やるからには観客に納得してもらえる内容を作るという気概を十分に感じましたね。

歌手陣もみなロシア語が母国語の人達で、歌唱力も大したもの。
アブドラザコフのイーゴリ公とコツアンのコンチャーク汗の二重唱の低音2人の二重唱の聴きごたえあること!惚れ惚れする男っぽさが声に香っておりまする。重量級男声歌手の共演にメッゾのラチヴェリシュヴィリの迫力ある声、ソプラノのディーカも全幕出ずっぱりなのに感情と歌唱をひとつにした声の素晴らしさ、輝かしさは一瞬たりとも陰らず、見事な歌いっぷり。
イタリア・オペラとは全然違う、大きくて重量大で広大な世界ではありますが、ロシア・オペラの特別な魅力をあらためて感じましたよ。
それがMETの規模とエンタテインメント哲学で実現したところが凄い。ロシア本国でもこれだけの「イーゴリ公」はかつてなかったものと思います。

今、政治の世界では対立しているアメリカとロシアですが、METの「イーゴリ公」観れば両者が協力すれば最高のものが出来上がるのが良く分かる例でしょう。

休憩中、ふとそんなことも考えながら4時間15分はあっという間に過ぎたのでした。

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2014年4月 4日 (金)

ルネサンスの傑作を渋谷で見る

欧米の美術館には大規模な公共建造物としての美術館もありますが、個人的なコレクションが発展したものがコレクターの屋敷や館に展示されている「邸宅美術館」も数多くあります。
昔の貴族や上流階級の生活感あふれる空間に美術品が展示されているのは特別な雰囲気で、歴史の中で美術がどのように愛好されてきたかが、その空間から感じることができます。
イタリア・ミラノにあるポルディ・ペッツォーリ美術館はヨーロッパを代表する邸宅美術館のひとつ。
このたび東京と大阪でそのコレクションが公開されます。内覧会に行ってきました。

このコレクションはミラノの貴族ジャン・ジャコモ・ポルディ・ペッツォーリが先祖代々の財産を受け継ぎ、さらに自分の蒐集した美術品からなる一大コレクションで、そのうち約80点が来日しました。すべて日本初公開だそうです。

スカラ座を訪れると、その近所にあるのがこの美術館で、僕も何度か訪れました。中庭から玄関を入ると右手にバロック式の屋内噴水があって、そこから階段を昇っていくというあたりが邸宅ならではの魅力です。
ポルディ・ペッツォーリは武具甲冑の収集からこのコレクションを増やし、同時に邸宅にネオ・ゴシックやバロック、ロココの内装の華麗なる部屋を増築してコレクションを展示してゆきました。
残念ながらその多くの部屋は1943年の空襲において破壊され消失してしまい、現在では写真でしかその栄華をうかがえません。しかし、今回の展示会場であるBunkamura・ザ・ミュージアムでは昔の写真をうまく展示したり、カタログにも多くの写真を掲載して、オリジナルの邸宅の部屋を感じる工夫がされています。

さて、80点の展示物の中で、この展覧会のシンボル、いやポルディ・ペッツォーリ美術館のシンボルと言えるのがピエロ・デル・ポッライウォーロのテンペラ画「貴婦人の肖像」(1470年ころ)でしょう。
青空の中にくっきり浮かび上がる、貴婦人の完全なる横顔。
結いあげた髪には絹と真珠の頭飾り、ほっそりした美しい首には真珠と金の球のネックレス、その先端には大きなルビーと真珠のペンダント。深い緑のドレスの袖は花模様の装飾で彩られています。
その高貴な横顔はまぎれもない貴族の女性を表しています。真珠の白は処女性を、ルビーの赤は愛の情熱の象徴だそうで、この肖像画は描かれた女性の結婚の際に制作されたものと推定されています。
見飽きませんねぇ…。
なんという美しさ!
じ~っと見つめているうちに、横顔の女性がこっち向いて話しかけてくれる気にすらなってしまいます。
この絵は近づいたり、ちょっと離れてみたり、左右に眺める位置を変えてみたり…、とにかくいろいろな見方ができます。どの角度や距離から眺めても魅力的。朝一番のすいている時間にでかけて、たっぷり時間かけて贅沢に眺めたいです。

もうひとつ、是非ともじっくり鑑賞したいのがボッティチェッリの「死せるキリストへの哀悼」(1500年頃)です。
フィレンツェのウフィッツィ美術館に行けば「春」や「ヴィーナスの誕生」など彼の代表的傑作を見られます。しかしこの作品は、そういった華やかで穏やかで優雅な雰囲気は皆無。
ドキッとするほど見る者に強烈な印象を与えます。十字架から降ろされる死んだキリストを抱き、嘆き、泣き、失神寸前の聖母マリアや絶望する人々。その表情のドラマチックなことに加え、人々の不自然なまでの窮屈な姿勢、ショッキングな色彩。
ボッティチェッリの性格が一変したかのような凄まじい絵です。

晩年のボッティチェッリは当時フィレンツェを席巻した宗教指導者サヴォナローラの強い影響力のもとにあり、かつての作風とは一変した宗教画を描きました。
まぁ、人格が変わったと言っても過言ではないでしょうね。
この絵を見ると、人間の内面が変化することの恐ろしいまでの結末を感じる気がします。
これまた是非じっくりと時間をかけて鑑賞してください。
あなたの知っているボッティチェッリとは全く違う世界があります。

このほか、展示の最初にはポルディ・ペッツォーリが最初にコレクションを始めた16世紀の武具甲冑も展示されています。
実際の戦闘に使うものと言うよりも儀式や行進の時に身につけるものだそうで、その細かな装飾や細工は惚れ惚れするほど美しいです。
道具とは機能だけでなく、美しい美術品であることが求められた時代の産物。一見の価値ありです。

貴族趣味というと、現在ではちょっとネガティブなイメージとして使われますが、この展覧会に行くと美意識を持つことの素晴らしさを痛感します。
「美しいものを愛でて、自分も美しく生きたい…」

ポルディ・ペッツォーリの叫びが展示品のひとつひとつから聴こえてきます。

ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション

2014年4月4日(金)~5月25日(日)
Bunkamura ザ・ミュージアム
2014年5月31日(土)~7月21日(月・祝)
あべのハルカス美術館

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