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2014年6月

2014年6月14日 (土)

ザルツブルク「聖霊降臨音楽祭2014」つづき~「オテッロ」~

「ロッシーニッシモ!」と言うタイトルの2014年の聖霊降臨音楽祭。

今回上演されたもう一つのオペラは「オテッロ」です。
シェークスピア原作の物語でヴェルディのオペラが有名ですね。…というか、オペラで「オテッロ」と言ったらヴェルディの作品のことだと思う人が圧倒的に多いのが現実。

しかしですね、ヴェルディがまだ3歳だった1816年に24歳のロッシーニが発表したオペラ「オテッロ」はヴェルディとはまた違った魅力にあふれています。テノールが4人も出てきますし、オペラ物語史上のワルとして描かれるイヤーゴも、悪人ではありますがヴェルディの「オテッロ」のように主役級の存在感ではなく、あくまで脇役。いや、オテッロ自身も圧倒的主役ではありません。主役はあくまでデズデーモナ。その苦悩にスポットを当てて物語が進行するのがロッシーニの「オテッロ」なのです。
詳しくは日本ロッシーニ協会のHPから、水谷彰良さんの作品解説をご参照ください。
→ http://societarossiniana.jp/

ロッシーニ 「オテッロ (または ヴェネツィアのムーア人)」

指揮:ジャン・クリストフ・スピノジ
演出:モーシュ・ライザー、パトリス・コリエ

オテッロ:ジョン・オズボーン
デズデーモナ:チェチーリア・バルトリ
エルミーオ:ペーター・カールマン
ロドリーゴ:エドガルド・ロッカ
ヤーゴ:バリー・バンクス
エミーリア:リリアナ・リキテアヌ
総督:ニコラ・パミオ

アンサンブル・マテウス、ウィーン国立オペラ座合唱団

その主役のデズデーモナがバルトリでした。
7日は「チェネレントラ」を歌い、8日は「ロッシーニ 大ガラコンサート」に出演して歌い、9日は「オテッロ」の舞台ですよ!音楽祭の監督とは言いながら、これほど精力的に出演しているのに圧倒されてしまいますが、本番の舞台がまた完璧だけにひれ伏すばかりです。
オテッロを歌うのはジョン・オズボーン。ヤーゴはツルツルに頭を剃りあげたバリー・バンクス。デズデーモナに片思いするロドリーゴはエドガルド・ロッカでした。

この舞台ではバルトリの「女優力」みたいなものに圧倒されました。
そりゃあなた、歌を武器にした大女優!オテッロとの密かな愛が成就するかどうかの震えるような喜びを少女のような愛らしさで表現したかと思えば、父にロドリーゴとの結婚を指示されて絶望に落ちる苦悩を伝え、ロドリーゴとオテッロが彼女をめぐって決闘となる場面では身を挺して2人の男に割って入り、しかも過酷な運命に翻弄される哀しさをあふれさせ気を失う。そして自分の真意がオテッロにさえ伝わらない状況に陥り、嫉妬の鬼と化したオテッロに身の潔白を訴えるもかなわず、ついに自ら「私を殺して」と迫ってオテッロによって刺殺されてしまう壮絶なラストシーン…。
高貴な女性の覚悟を全うする物語を見事に演じ歌いきったバルトリこそ、ロッシーニの「オテッロ」を本当に歌える歌手なのを心の底から納得しましたよ。
演じたり、歌うという段階ではなくて、デズデーモナそのものになりきった!…と言っても良いでしょう。その迫真の姿に感激。
歌と演技でここまで表現できるバルトリの凄まじいまでの表現力に会場は総立ちの拍手でした。

テノール陣でも特にオテッロ役のオズボーンとロドリーゴ役のロッカ、ヤーゴのバンクスは実にバランスが取れた陣容でテクニックも声質もアンサンブルの響きも素晴らしかった。
この「オテッロ」は以前ペーザロのロッシーニフェスティバルで見たのですが、その時はオテッロがグレゴリー・クンデでロドリーゴがフローレス。デズデーモナは当時まだデビューしたてのペレチャツッコでした。この時はクンデの豊かにして存在感ある声とフローレスの「神の声」にデズデーモナは影が薄い印象でしたが、やっぱり歌手が変わるとオペラそのものの印象がガラリと変わります。
ロッシーニが創作した当時のナポリ・サンカルロ歌劇場の大歌手イザベッラ・コルブランのためのオペラという事実が、今回は実によく納得できました。

バルトリ…まさに現代のコルブランです!

とにかくこういうオペラは、世界のどこでも体感できるタイプではありません。
わざわざ出かけて行って初めて実感できる代物。
その意味で、本当にザルツブルクまで行って良かった…と、しみじみ思いました。

人間、大人になっての納得は、理屈による納得と感性による納得があるといいますが、今回は圧倒的に感性が震えまくる納得…そして感激。
生きてて良かった~~ってもんです。

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2014年6月13日 (金)

バルトリの「チェネレントラ」~ザルツブルク聖霊降臨音楽祭~

 先週末からザルツブルクに行ってきました。「聖霊降臨音楽祭」が行われていて、音楽監督は、あの驚異のソプラノであるチェチーリア・バルトリ。今年のテーマは「ロッシーニッシモ!」でしてロッシーニ大特集。これは是が非でも行かなくちゃ!というわけで6月7日から9日まで滞在してオペラとコンサート6公演を鑑賞。
めくるめくロッシーニの音楽に酔いました。

フランクフルト経由でザルツブルクに到着したのが6月6日の夜遅く。現地は連日最高気温33度くらいの暑さです。湿気はないものの日射しは強烈。ホテルで自転車を借りて散歩や移動にフル回転。歩くよりははるかにラクでした。

7日は19時から祝祭劇場にある「モーツァルトの家」ホールで「チェネレントラ」へ。
開演30分前に会場に到着すると、周辺は着飾った紳士淑女がシャンパングラス片手に談笑しております。ザルツブルクの音楽祭はいつもセレブがいっぱいですね。貴族的な華やかさが漂います。

2014年6月7日  ロッシーニ「チェネレントラ」 19時開演

指揮:ジャン・クリストフ・スピノジ
演出:ダミアーノ・ミキエレット

アンジェリーナ(チェネレントラ):チェチーリア・バルトリ
ドン・ラミーロ(王子):ジャビエル・カマレナ
ダンディーニ(王子の従者):ニコラ・アライモ
アリドーロ(王子の家庭教師):ウーゴ・ウアリアルド
ドン・マニフィコ(シンデレラの継父):エンツォ・カプアノ

ウィーン国立歌劇場合唱団、 アンサンブル・マテウス(古楽器オケ)

バルトリが歌うチェネレントラを一度生で聴いてみたいと思っていただけに、期待して出かけました。王子役はチューリヒ歌劇場で多くのコンビを組んでいるテノールのジャビエル・カマレナ。最近その輝かしい高音域でベルカント物を得意とし、ヨーロッパ全域で人気が高まっている注目株です。しかも演出のミキエレットは、だいたいオリジナルをひとひねりした舞台を演出する人。おまけにロッシーニのオペラ上演では珍しい古楽器によるオーケストラです。

スピノジの指揮は少々作り込みすぎるきらいがあって、序曲では途中で急にテンポが変化したり舞台の歌手たちの動きとオケをいっしょにしようとして流れが止まってしまうような箇所もありました。あとは古楽器オケゆえにダイナミックスがどうしても足りなく感じてしまう。
これがもう少し小規模な劇場なら良しとしますが、いかんせん迫力不足に感じてしまうのは今迄古楽器オケのロッシーニなど生で聴いたことがなかったせいでしょうか…。

バルトリとカマレナはさすがの歌唱でした。
ミキエレットの演出は、シンデレラの家は現代の街のバールになっていて、そこのオーナーがドン・マニフィコ。義姉2人は父が居眠りしているすきにレジから現金をくすねるような馬鹿娘として描かれていて、アンジェリーナはそのカフェでゴム手袋にモップ片手にこき使われているという設定。
アリドーロは最初から天使のような役回りで、天上からカバンと共に地上に降り立ち、シンデレラにあれこれと幸運をもたらしたり手助けしながら状況を見守っています。
ディズニー映画での「シンデレラ」における魔法使いのお婆さん的な描かれ方でした。
王子の花嫁募集がカフェのテレビにニュースとして流れて、ダンディーニと王子が身分を入れ替えてカフェにやって来て物語が進む…というわけです。

最後のアンジェリーナの大アリア「哀しみと涙のうちに生まれて」のところでアンジェリーナが居合わせた皆に結婚の引き出物のようなプレゼントを渡すのですが、アリアを歌い始めるとそこから掃除用のゴム手袋がでてきて、天上から掃除用のバケツがたくさんぶら下がってくる。王子が洗剤をまきながらドン・マニフィコや義姉たちが、以前アンジェリーナがやっていたように掃除を始める…というなりゆきに客席は大ウケ。「私の復讐は赦すことなのです」なんて歌いながらちゃっかり復讐を遂げる現代娘のアンジェリーナなのでした。

それにしてもバルトリの歌唱にあらためて驚愕。
超絶技巧の装飾音がひとつひとつ粒のように、しかも美しく音楽となって響いてくる。それをソットヴォーチェでも自由自在に歌いこなすんですから!
舞台から6列目の席で鑑賞しましたが、そのくらい近くで聴くと彼女の息遣いと共に空気が揺れるのを実感できます。素晴らしいアジリタでは細かく飛んでくる響きのシャワーを浴びているような感覚でした。もう本当に「凄い!!」としか言いようがない。
いっぽうカマレナの声は、若いだけにとにかくドカーンと突き刺さるような輝かしさに満ちています。洗練とかスマートさはさておき、今の彼しか出せない声なのは確かです。同じテノールでもシラグーザのような甘さと滑らかさは対極の、強さと勢いで聴く者をねじ伏せる感じかな。これからどういう風に熟していくのかも楽しみです。

「チェンレントラ」は台本も音楽もとても良くできたオペラなので、これまであまり奇抜な演出にはお目にかかりませんでしたが、今回のミキエレットのニュープロダクションにはニヤリとさせられました。
ロッシーニアンとしては大満足の聖霊降臨音楽祭最初のオペラでした。

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