日記・コラム・つぶやき

2014年7月18日 (金)

コロッケの至芸

私は主にクラシックの話題を中心にブログ書いてますが、本業は音楽評論家ではなくフリーのアナウンサーです。したがって普通のアナウンサーの仕事もたくさんやっております。
企業の表彰式典やパーティの司会も得意としております。
喋りのニーズのあるところ、お声掛け頂ければ何処へでも参上して期待に応えるのが使命なんですね。

さて、某自動車メーカーの表彰式典にともなう懇親会のエンタテインメントがおなじみのコロッケさんのステージでした。

有名芸人のいわゆる「営業」でしょ?と言うなかれ。
僕はステージ裏にいてステージでのパフォーマンスはモニターテレビで見ていたので、ステージの裏表両方を鑑賞できたのですが、それはまさに至芸の世界。

ステージの構成はこんな流れでした。

2億4千万の瞳 郷ひろみ
抱きしめてtonigaht 田原俊彦
ライジング・サン EXILE
Hotel Pasific サザンオールスターズ
お祭りマンボ 美空ひばり
シンデレラハネムーン 岩崎宏美
おふくろさん 森進一
さそり座の女 美川憲一

アコースティックコーナー

契り ロボットと化した五木ひろし
ヒップホップ祭り 北島三郎

このイベントが始まる前に、キャスティング担当者から「コロッケさんは常に公演で新しいことをやろうという姿勢が感じられるのです。マンネリのプログラムってないんですよ」と聞いていました。まさに、その通り!
特にプログラムの前半はメドレー形式で歌の一節を歌って笑わせて、短いダンスや司会の合間に舞台裏で衣装の早変わりを済ませてまた舞台へ…の連続。舞台裏ではスタッフが総がかりで待ち構え、アッいう間に「変身」して行くコロッケさんは神技!

「お客様~、真剣に私を見ないでください!これはモノマネですから。ニセモノですから!!ここに本物はいないの(会場爆笑)」なんて言いながら客席の空気をすぐさまつかみ、自分の世界を展開していく力は凄いです。

モノマネって、一種のデフォルメ芸だと思うんですよ。真似される人の特徴をいかに誇張してみている人に納得させるか…。ここがポイントでしょ?
その意味でコロッケさんのデフォルメ芸は超一流です。
でも、それだけじゃありません。この日は松山千春や桑田圭祐の「正統的な」歌も披露しました。これがまた素晴らしい。コロッケ本人が歌手として勝負できるくらいの声と技術。
きちんとした歌唱力があってこそ他人の歌を真似るのが出来るんですよ。

そしてもうひとつ、コロッケさんの舞台の面白さは、モノマネと状況を掛け合わせて作る「シチュエーション芸」だということ。「崖の上のポニョ」を歌う長淵剛とか、和田アキ子や北島三郎が童謡を歌うとか、あるいは歌っていた五木ひろしが急に志村けんに変わって、最後はまた五木ひろしに戻る…。傑作だったのは森進一が映画「ジュラシック・パーク」に出てくる肉食恐竜に変化して歌うという状況。腹かかえて笑いました。
要するに「ありえないシチュエーション」とモノマネを融合させる芸。ここで観る者は知ってるはずのモノマネの意外性に出会ってやられちゃうのです。

御自身も「このモノマネはテレビでは出来ないです、相手の事務所が怖くて…(笑)」などと言ってましたが、コロッケさんにとって、おそらくこのようなライヴのステージは自分の芸の反応をみる大切な場でもあるのでしょう。新ネタは頭の中で考えて、自分でやってみて「いけるかな?」と思っても、実際のお客さんにぶつけてみて初めて確信につながりますからね。
だからコロッケさんはテレビじゃない「営業」の舞台も大切にする。今までやって爆笑間違いなしの安全ネタばかりやらないで、あえて新ネタや冒険ネタを取り込む。それが自分のキャリアをさらに豊かにしていくのを実感しているのだと思います。
守りに入らず、常にトライの姿勢です。

50分の独演でしたがお客さんは大喜び。
基本の歌唱力と話術。応用のモノマネ。生の舞台でお客さんとコミュニケーションしながら進めてゆく即興力。どれをとっても本物の芸でした。「お笑い芸人」という言葉が氾濫する時代だけに、その芸の輝きは素晴らしかった。
この輝きは、およそ舞台に登場して披露するものならモノマネもクラシックもオペラもみんな一緒のものですね。

大笑いの余韻のなかで、深く考えました。

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2014年7月14日 (月)

大作曲家の恋愛カルテ

ピアニストの小林有沙さんと一緒に愛知県扶桑町で公演してきました。

第26回ふそう文化大学「大作曲家の恋愛カルテ ~その恋文と音楽~」
2014年7月13日 14時開演 扶桑文化会館

 

モーツァルト:ロンド ニ長調 K485
シューマン:幻想曲 ハ長調 Op17より 第2楽章
クララ・シューマン:4つの性格的小品 Op5より「ロマンス」
ブラームス:6つの小品 Op118より 第1曲、第2曲

 

ショパン:ワルツ第1番 変ホ長調 華麗なる大円舞曲 Op18
      ノクターン 第13番 ハ短調 Op48-1
リスト:愛の夢 第3番 変イ長調
ドビュッシー:「子供の領分」より ゴリウォッグのケークウオーク
        「喜びの島」

 

ピアノ:小林有沙
話&朗読:朝岡聡

扶桑町は名古屋から名鉄で20分ほどの街。木曽川が街の北端を流れ、かつては桑畑、今は水田や守口大根の栽培で知られている田園地帯です。「独自の文化があふれる生涯学習のまちづくり」を目標に掲げていて、文化会館を中心とした芸術活動や地域間交流が盛んな場所でもあります。文化・芸能・音楽などの公演を文化会館が主催しており地元のボランティアが積極的に参加しているのも特徴。「ふそう文化大学」もそういった公演の一環です。音楽イベントの企画出演依頼を頂戴したので、私がクラシック音楽の舞台を考えて実現したのが今回の公演です。

私は常々「クラシック音楽の面白さと素晴らしさを広めたい」と考えているのですが、「名曲だから素晴らしいです」と言っても、お客様は実感がわきません。その作品が生まれた背景を考えると、そこには作曲家の人生や感情、歴史的な出来事など、「へぇ~」と感じ「なるほど」と共感できる要素があるのです。
それを演奏前にお話しして、良い意味で「知っているつもり」にして差し上げてから実際に演奏を聴いていただくと、クラシックは格段に面白くなります。

今回は作曲家の恋愛エピソードとラブレターを紹介してから演奏する企画を考えました。
芸術っていうのは「心のほとばしり」がカタチになったものだと思います。
もっと分かりやすく言うと「心がドキドキする」のが芸術のルーツみたいなところがあるでしょう?人間、いちばん心がドキドキするものと言えば恋愛ではないかと。
作曲家はその最たるものではないでしょうか。

今回採りあげた7人の音楽家も、奥さんや恋人に多くの手紙を残している人ばかり。
その文面からは、それぞれの作品の雰囲気を彷彿とさせる空気が漂っています。
たとえばモーツァルト。
「前のページを書いている時、手紙の上に涙をいっぱいこぼしちゃった。…でも今は元気さ…ほら、捕まえて!…ビックリするほどキスがいっぱい飛びまわっている。…こんちくしょう!僕にもしこたま見えるぞ!…そらそら!3つ捕まえた!…こいつは貴重だ!
さよなら、最愛にして最高の僕の奥さん。健康に気をつけて…歩いて町になんか出ないように…さよなら、100万回のキスをおくります」

キスが蝶のように飛びまわる…。この天真爛漫な軽やかさと陽気さは確かにモーツァルトの音楽の重要な要素ではありませんか!
この手紙を朗読してからロンドニ長調を小林有沙さんに演奏してもらうと、その音楽の味わいは格別でした。

シューマンではクララとの結婚が彼女の父親の猛反対で暗礁に乗り上げている頃の手紙を読み、クララへの愛の確信を感じられる幻想曲ハ長調の第2楽章。さらに蔵らが愛するシューマンへ宛てた手紙を朗読してから、彼女自身の作曲による「ロマンス」。知的で豊かな作曲の才能を感じさせる小品でした。
そして夫の死後40年にもわたって交流を続けたブラームスの手紙には、クララへの憧れと共感がしみじみと感じられ、彼の死の2年前に75歳のクララへ献呈された「6つの小品」の冒頭2曲には、彼女との日々を懐かしく思い出すような情感があふれている。
そのほかショパンとジョルジュ・サンド、リストとダグー夫人、ドビュッシーと妻エンマ。それぞれの恋愛プロフィールと恋文の朗読をしてから演奏をお届けしました。

小林さんの演奏は、作況かが作品に込めたメッセージを的確に汲み取り、すくい上げる様な丁寧さとドラマをもったものでお客様にも大好評。私自身も作曲家の恋を紹介しつつラブレターを読んでいると、なんだかその作曲家が親友や隣人のような感覚になって来て、大いに興味深く楽しいひとときでした。

この企画、シリーズ化も出来ると思うのですね。
あなたの街にも伺って公演する日が近いかも……。

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2014年5月20日 (火)

巨匠ゼッダの素晴らしき世界

先週末は金曜日に宮崎国際音楽祭の司会、土曜日には、我がオペラ同志のソプラノ天羽明恵さんプロデュース「オペラぺらぺら~愛の妙薬」ナビゲーターを務めて、コンサート・ソムリエとして充実の週末でした。そして極め付きが日曜日に伺ったイタリアのマエストロ、アルベルト・ゼッダが指揮する東京フィルハーモニー交響楽団の演奏会。
いやいや格別な感動でした…!

東京フィルハーモニー交響楽団 2014年5月18日 Bunkamuraオーチャードホール

 

指揮:アルベルト・ゼッダ
メゾ・ソプラノ:テレーザ・イエルヴォリーノ
コンサート・マスター:青木高志

 

シューベルト:交響曲第3番 ニ長調 D200
ロッシーニ:カンタータ「ジョヴァンナ・ダルコ」

 

マリピエロ:交響曲第2番「悲歌」
ロッシーニ:歌劇「ギヨーム・テル」より 第1幕「パ・ド・シス」 第3幕「兵士の踊り」
ロッシーニ:歌劇「セミラーミデ」序曲

 

ロッシーニ好きにとってアルベルト・ゼッダは神様なのです。
毎夏のロッシーニ・オペラ・フェスティバルの芸術監督であるばかりでなく、ロッシーニの解釈や演奏、そして研究においても最高の存在。普段目にすれば、イタリア人にしては小柄なお爺ちゃんなのですが、ひとたび指揮台に立てば魔法のような音楽をオーケストラで奏でてくれる!その音楽が素晴らしい!!
瑞々しくて、若々しい。洗練されていて奥深い。もう、ホントに素敵なんです。

この日はシューベルトが18歳の時に書いた交響曲から始まりました。
長い序奏から始まるあたりからしてハイドンの晩年のシンフォニーを参考にしているわけですが、生き生きとした楽想や管楽器の歌い方などは、まさにイタリア的…というか、マエストロ・ゼッダが指揮するからこその味わいでした。
なんだかロッシーニの空気なんですよ。実に楽しかったな。ニ長調の調性そのものの愉悦を感じました。

つづいてロッシーニのカンタータ「ジョヴァンナ・ダルコ」。つまりジャンヌ・ダルクです。
1832年の作品ですから彼の「ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)」より後の作品。
カンタータとは言っても、メゾが一人で約18分歌うものです。私には完全にオペラの中のヒロインが歌う大アリアでした。いやぁ、素晴らしかった!
中世の英仏戦争においてフランス救国の少女となったジャンヌ・ダルクが、愛する母親と故郷に別れを告げ、戦いは必ず勝利をもたらすことを誓う場面までが前半。そして戦地に向かい、勝利を収め、その喜びを歌いあげるまでが一大絵巻者アリアのように歌われるのです。最期のパートの超絶技巧のアジリタに感動。歌っていたテレーザはまだ25歳ですが、早くもイタリアではオペラの舞台でも頭角を現していて、ただ者ではない実力を披露してくれました。逸材です。テクニックは完璧。すごい。
「若い頃のバルトリみたいね~」なんて声もあったり、とにかく美しい声のコントロールと表現は素晴らしい。生で聴けて良かった~~~。
オリジナルはピアノ伴奏ですが、ロッシーニ・オペラ・フェスティバルの10周年記念としてサルバトーレ・シャリーノによってオケ版に編曲された作品だそうです。
でも、まるでロッシーニのオペラの一場面かのような響きでした。

ジャンヌ・ダルクが真夜中に故郷と母親に別れを告げて戦地に赴き、その戦いが良い知らせとなることを誓う抒情的なレチタティーボとアリア、母が悲しむ中で実際に戦場へ行き戦いに臨むジャンヌ・ダルクとその勝利を歌いあげる後半は、オーケストラ伴奏あってこその音楽的感動でした。テレーザはすでにオペラ出演もしていて、間違いない逸材なのが分かりました。さすがマエストロが選んだ歌手だ。

休憩をはさんでマリピエロの交響曲第2番。

イタリアの「交響曲」っていうのが珍しい気がしますが、『悲歌』というタイトルを持っていて作品全体に哀愁に満ちた風景画のような趣。これがマエストロの手にかかると一篇の詩のように印象深く響いてくるのです。

そして「ギヨーム・テル」のバレエ音楽と「セミラーミデ序曲」。
「ギヨーム・テル」からは第1幕の「パ・ド・シス」と第3幕「兵士の踊り」が演奏されました。
「ロッシーニの神様」であるマエストロの音楽は、あくまで洗練されていて美しい。大きなオーケストラの一人一人の音色が生き生きとソロやアンサンブルになって一つの音楽になっている。マエストロのロッシーニ愛と楽団員のゼッダ愛が融合した稀有な音楽でした。
単なる若々しさだけでなくて、深い知性と現代人を刺激する感覚に満ちている。
もう、本当に贅沢な時間。

終演後に楽屋に行くと、出会う楽団員が皆、ニコニコと幸せそうな表情なのです。
こんな情景はめったにありません。「生きてる~!って感じです」とか「最高。もう終わってしまうのが残念」なんて声がそこかしこから聴こえてくる。おまけにマエストロと記念写真を撮る楽団員がたくさん…。
アルベルト・ゼッダがいかにオーケストラから愛されているのかを実感しました。だから、あれほどの演奏になったのですね。
とにかくマエストロ・ゼッダの魔術的な魅力は、ロッシーニの音楽の魔術的快感と一緒になって、最高度の幸せを与えてくれました。

来年は「ファルスタッフ」や「ランスへの旅」の指揮で来日する予定だそうです。
世界遺産と言ってもよいゼッダさんの素晴らしい指揮をぜひまた生で聴きたい!
その音楽を聴くと自分の身体と心にもみずみずしさが蘇るのです。
心からそう思います。

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2014年5月13日 (火)

ライブビューイングのはしご

今日は1日でオペラを2本観ました。
パリ・オペラ座とNY,メトロポリタン歌劇場のライブビューイングをはしご。それぞれに特徴あって、あっという間に観終わってしまった。面白かったですよ。

まずは午前10時開始のパリ・オペラ座ライブビューイング。会場は東京メトロ銀座線・三越前駅下車のTOHOシネマズ日本橋。大好きなベルカントもの、それも「清教徒」です!

パリ・オペラ座ライブビューイング 2013年12月9日上演 バスチーユ・オペラ座

 

ベッリーニ「清教徒」

 

指揮:ミケーレ・マリオッティ
演出:ローラン・ペリ

 

エルヴィーラ:マリア・アグレスタ
アルトゥーロ:ドミトリ・コルチャク
リッカルド:マリウス・クヴィエチェン
ジョルジョ:ミケーレ・ペルトゥージ

 

パリ・オペラ座管弦楽団・合唱団

アグレスタのバスチーユ初登場のオペラです。期待を裏切らない出来でした。いや、まことに素晴らしい!これまで何度か観た舞台は、フローレスはじめ、いずれもアルトゥーロ役のテノールに注目と期待が集まる上演でした。でも今回は間違いなくアグレスタの存在感と表現が目玉です。
ローラ・・ペリの演出は、この物語をエルヴィーラの「夢の中の物語」としてとらえていて、17世紀の城の輪郭だけをとりかごのように構築したセットを使用した舞台。彼女の寝室があって、そこにエルヴィーラは最初からいるので、歌う場面でなくてもほとんど出ずっぱり。階段登ったり、ほかの地点に移動したりと動きもたくさんある中で歌そのものは圧巻でした。狂乱オペラのツボである揺れ動く感情のヒダを、音程も表現も全く不安なく歌いきる様子には驚嘆!しかも最高音やアジリタで「目いっぱいの必死さ」を感じさせない。
ここです。ここが凄い。
素晴らしい歌唱で人を納得させるのは、あくまでキチンとコントロールされている声と表現あってのことでしょう。これが出来るアーティストは素敵です。声でいえば絶叫でなくて、あくまで余裕ある表現かどうかじゃないでしょうか。
アグレスタはそれが出来る歌手です。
アルトゥーロ役のコルチャクも難役を良く歌っていましたが、あの役はねじ伏せるような技量がないと喝采はもらえないのでしょうね。なんとも残酷な役であり、本当のスーパースターだけが歌って評価される役なのが良く分かりました。

脇を固めるクヴィエチェンやペルトゥージも素晴らしい。
この2人が歌うバスとバリトンの二重唱「ラッパを鳴らして」を聴いたらゾクゾクしましたよ。
男同士の熱さと艶、血沸き肉躍る中にロマンの香り高き最高の声の饗宴。
良かったぁ~~~。

指揮のマリオッティも、歌わせ方が最高でした。速いテンポの曲でも、歌う部分はたっぷり余裕を持たせて歌手にもオケにも表現させる。これが抜群に自然で上手。
オケ全体が歌なのですよ。そこに実際の歌手や合唱が一緒になった時の贅沢さ!もう心地良いことこの上ありません。
その音楽の説得力は抜群で、なんとも幸せになったのでした。

さて、この上映が終わったのが13時15分過ぎ。
それから近所の立ち食いそばで昼食を済ませ、向かったのがMETライブビューイングを上映する東銀座の東劇です。
ここではおなじみのラ・ボエームを鑑賞。これがまた良かった!

METライブビューイング 2014年4月5日上演

 

プッチーニ「ラ・ボエーム」

 

指揮:ステファーノ・ランザーニ
演出:フランコ・ゼフィレッリ

 

ミミ:クリスティーヌ・オポライス(アニータ・ハーティングが急な降板のため代役)
ロドルフォ:ヴィットーリオー・グリゴーロ
ムゼッタ:スザンナ・フィリップス
マルチェッロ:マッシモ・カヴァレッティ
ショナール:パトリック・カルフィッツィ
コッリーネ:オレン・グラドゥス

 

メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団・エキストラ

「難しいことをサラリとやってみせる」と言う意味では、この上演日のミミを歌ったオポライスもプロの鑑です。
本来歌うはずのハーティングが上演当日の朝7時半にMETに「風邪で歌えない」とメール連絡。すぐさま代役探しが始まり、朝8時前にオポライスに打診が来たそうです。なんと彼女は前夜METで蝶々夫人のタイトルロールを歌ったばかり。おまけにこの日の開演は午後2時です!普通なら断って当然のオファーでしょ?

ところがオポライスは受けたんですよ。「プロなら受けるべきだ」と考えて…。
その意気や良しですが、彼女の凄いのは本番の舞台でも不自然さなど全く感じさせない歌と演技だったのです。これが感動的!インタビュアーのJ・ディドナートが「あなたはこの18時間に舞台の上で2度死ぬのね!」と言ってましたが、死ぬだけじゃなくてそれぞれのヒロインを歌い切り、演じきるわけですものね。いやいやビックリ!
よほどミミの役を演じているのか、はたまたミミ役が大好きで研究していたのかは分かりませんが、とにかく舞台上の動きも所作も不自然なところは全くなし。それどころかまるで本来のキャスティングのようになじんでいた。一流のプロの凄さでしょう。
「冷たき手」と「私の名はミミ」の場面だってホント上手かったな。
カフェ・モミュスやランフェール門でのロドルフォとのやり取りもしんみりさせたり笑わせたり…。
最後の屋根裏部屋で息を引き取るプロセスも泣きました…。

大したものです。開演前にMETのゲルプ総裁が「これまでのMETの歴史で蝶々夫人の主役をやった翌日にミミを歌った歌手はいません。今日は歴史的な公演です」と言ってましたし、ライブビューイング恒例の幕間インタビューにも快よく応じているのを見ると、一流のアーティストの懐の深さと柔軟性をしみじみ感じました。
難しいことをサラリとやってのけてこそプロ中のプロ…そんな言葉を昔聴いた覚えがありますけれど、オポライスのこの舞台からは、その事実をまざまざと感じました。またまた勉強になったなぁ…。

ゼフィレッリのこの演出は1981年以来のMETの定番演出です。
「ラ・ボエーム」って、どんなオペラ?と聞かれたら必ず紹介したいものですよね。
この上演ではロドルフォはじめ屋根裏の共同生活をする若き4人の芸術家の雰囲気が抜群に良くて、本当の仲間と信じ込めるほどの親しみと一体感を実によく醸し出していました。だからこそ泣けたんでしょう。

1日で6時間も座ってオペラ鑑賞の日でしたが、あまりに素晴らしい歌手たちの舞台に酔えて幸せでした。
映画ならではの興奮と感激。

こういうアクシデントも含めて観客にエンタテインメントとして納得させるのがMETならではのやり方かも。最近いろんな劇場のライブビューイングを楽しめて嬉しいのですが、METのしたたかな面白さはやっぱり特筆モノですね。

実に印象に残る舞台でした。

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2014年5月 6日 (火)

連休に観た映画 2014

この連休はいかがお過ごしでしたか?
毎年ゴールデンウィークは遠くに出掛けるより近いところで過ごすのが好きです。
今年も映画に出かけました。

この時期の私の定番と言えば、有楽町で開催される「イタリア映画祭」。
現代イタリアの最新作がまとめて鑑賞できるのが素敵。イタリア大好きな私にとってははずせないイベントです。
私、映画は基本的に共感できる相手と一緒に観るか、さもなくば一人で観に行く主義です。中途半端な人と映画に行くとえらく興ざめになりますからね。今年はぜ~んぶ一人で行きました。

今年は3作を鑑賞。
まずは「グレート・ビューティ/追憶のローマ」。2013年のパオロ・ロレンティーノ監督作品。
ローマ在住の熟年作家ジェッブが究極の美と愛の対象を求めて行動したり回想する物語。ローマの美しき名所がたくさん出てきます。これまでの愛の遍歴の空しさやはかなさも思い出しながら、なお満たされない美への探究…。142分の大作ですが、その内容の濃さは特別です。冒頭の20分くらいは「よく分からん!」と言う印象でしたが、その後どんどん引き込まれました。亡くなった渡辺淳一さんのような主人公なのかもしれません。
愛と美を求める日々が良く分かる。
監督のソレンティーノは本作でゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞、アカデミー賞外国語映画賞を受賞。
この秋、Bunkamuraル・シネマほかで全国上映されるそうです。

つづいてイタリア映画祭で観たのが2013年度制作の「サルヴォ」。
F・グラッサドニアとA・ピアッツァの共同監督。この2人は脚本家として活動している人達。
シチリアが舞台の映画です。
マフィアのヒットマンであるサルヴォは冷酷非情な男。裏切り者を殺しに出かけて、彼が不在の家で出会ったのは標的の男の盲目の妹。家に潜んで目的を達成するものの、兄を殺されたショックからか妹の視力が回復してゆく…。一方サルヴォも本来は標的と一緒に殺しているはずの妹の命までは奪わなかったところから心情に微妙な変化が現れる。彼女を密かにかくまっているうちに愛情が芽生える。やがてそれはサルヴォのボスの知るところとなり…。

なかなか面白い映画でした。会話が少なくて終始重苦しい雰囲気の中に物語が進行。それだけに俳優・女優の演技と表情が際立っていました。結末はちょいと読める展開でしたがね。

そして3作目は「自由に乾杯」と言う作品。イタリア語の原題はViva la libertaですから『自由万歳』っていう感じでしょうか。
これはめっぽう面白かった!ロベルト・アンドー監督の2013年度作品。
舞台は現代のイタリア。最大野党のリーダーであるオリヴィエーリは支持率低迷に困惑し、迫りくる選挙が不安になり失踪してしまう。急な出来事に困惑した腹心の部下とオリヴィエーリの妻が決断したのは、彼の双子の兄弟のジョヴァンニを替玉にすることだった。
ジョヴァンニは精神病院歴のある男。狂気と正気は紙一重。彼の切れ味良く、さわやかで人を魅了する弁舌で世論の評価は一変。腹心の部下や妻はもちろん、首相や大統領までもが目を見張る存在になる。
一方、失踪したオリヴィエーリはパリでフランス人の昔の恋人の下に身を寄せていた。彼女は映画監督の夫と小学生の娘と幸せに暮らしている映画関係者。家族も実に協力的で、妻の昔の恋人と分かっていて同居を許す夫や、次第に打ち解ける彼女の娘。そして彼女自身もオリヴィエーリを温かく迎えてくれる。映画現場でわかい女性スタッフとのアバンチュールまでも経験してしまうオリヴィエーリ。そんな経験を通じて次第に周囲や人に対する感覚を取り戻してゆくオリヴィエーリ。
結末は狂気からか失踪してしまうジョヴァンニと入れ替わる形でオリヴィエーリが自宅に復帰し、自信を取り戻した表情で物語は終わる…。

『グレート・ビューティ/追憶のローマ』で主人公を演じたトニ・セルヴィッロが本作でも双子の兄弟を一人二役で演じています。これがまた秀逸!
それぞれの性格や状況の違いを抜群の演技力で演じ分けている。大笑いするやら、しんみりするやら、感動するポイントが随所にあって実にすばらしい。
ジョヴァンニが気分が高まるとヴェルディ「運命の力」序曲を鼻歌で歌うシーンが随所に出てきます。この曲がキーワードのように物語のツボで聴こえてくるのも良かった。劇的な短調から光が差し込むかのような長調に転じる部分も上手くカット変わりに合わせるという、心憎い使い方もあって誠に印象的に音楽が使われていました。
腹心の部下役は昨年のイタリア映画祭の目玉だった「フォンター広場」で好演したヴァレリオ・マスタンドレア。この俳優も、真面目に演じて笑いをとれる役者ですね。感心しました。

映画の結末で、自信を取り戻して帰宅したオリヴィエーリが見せる微笑みの表情にしびれました。派手なアクションや激烈なセリフでなくて、微笑み一つで全てを納得させてくれる芸にブラ~~~ヴォ!!!
もう1回観たいです。

イタリア映画祭とは別に「テルマエ・ロマエⅡ」も観ました。
続編ということもあってか、僕自身の評価は前作を越える面白さとは言えないかも。
日本の風呂・温泉文化をエンタテインメントとして楽しむのは相変わらず素晴らしいです。
曙や琴欧州が古代ローマ帝国の剣闘士になったり、松島トモ子が熊と絡んだり、往年の喜劇俳優白木みのるが甲高い声でラーメン屋のおやじで登場するのは笑いましたけど、物語の設定やパターンを知って観る「続編」だけに、新鮮な驚きが少なかったのも事実。初作の面白さが画期的だっただけに、同じパターンで前作を越えるのがいかに難しいかを感じましたよ。決してつまらない作品ではありませんけどね…。

でも、やっぱり映画は面白いな。
オペラと同じ総合芸術ですからね。この映画はフジテレビの作品です。最近テレビでは勢いが弱くなったフジテレビではありますが、洗練されたバカバカしさというのでしょうか、飽きさせないエッセンスは生きてます。

ちなみにテルマエ・ロマエⅡにも相変わらずヴェルディやプッチーニのオペラから色々な曲が使われています。その音楽が、日本人の演じる「ローマ帝国の物語」になんとも言えぬ説得力を加えています。
相撲協会も協力しての大作です。

元横綱・曙のカッコイイ姿、久しぶりに見ました。

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2014年4月17日 (木)

METライブビューイングの来シーズンラインナップ

映画館でゴージャスなオペラを堪能できるという意味では大好きなMETライブビューイング。
時々伺うのですが、配布されるプログラムに「拍手やブラ~ヴォを歓迎します」と書いてあります。本番のような雰囲気を作りたい主催サイドの意図は理解しますけど、やっぱり少々難しいかもね。
拍手や掛け声は生の舞台に向けてこそ…という気もします。
目の前で生身の人間が繰り広げる演技や演奏に感動した人が、その舞台と一緒になって作る劇場空間。その大事な要素が拍手や掛け声だと思います。
舞台が客席に感動を与え、客席も舞台に感激を与える相互同時進行。拍手は一方通行では本来の意味の半分しか機能しないものでしょう。

もちろん、スクリーンに向かって拍手したって全然かまわないですし、会場の盛り上がりを期待する主催の立場としては、このコメント、分かりますがね…。

さて、先日来シーズンのラインナップが発表されていましたので、ご紹介します。
日付はいずれもMET初演予定日。

●第1作 ヴェルディ 「マクベス」
指揮:ファビオ・ルイージ
演出:エイドリアン・ノーブル
出演:A・ネトレプコ ジェリコ・ルチッチ ルネ・パーペ ジョセフ・カレーヤ
2014年10月11日

開幕はやっぱり豪華メンバーですね。声の饗宴だ!

●第2作 モーツァルト 「フィガロの結婚」
指揮:J・レヴァイン
演出:リチャード・エア
出演:イルダール・アブドラザコフ P・マッテイ M・ポプラフスカヤ 他
2014年10月18日

重量級の布陣です。

●第3作 ビゼー 「カルメン」
指揮:パブロ・エラス=カサド
演出:リチャード・エア
出演:A・ラチヴェリシュヴィリ A・アントネンコ イルダール・アブドラザコフ
2014年11月1日

先日の「イーゴリ公」のメインキャストが今度はカルメンに!

●第4作 ジョン・アダムス 「クリングホーファーの死」
指揮:デヴィッド・ロバートソン
演出:トム・モリス
出演:パウロ・ジョット アラン・オービー ミカエラ・マーティンズ
2014年11月15日

どんな内容なのか興味津々…

●第5作 ワーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
指揮:J・レヴァイン
演出:オットー・シェンク
出演:J・ロイター J・ボータ アネッテ・ダッシュ ヨハネス・マルティン・クレンツレ
2014年12月13日

アネッテ・ダッシュも今やワグナー歌手なんですね!

●第6作 レハール 「メリー・ウィドウ」
指揮:アンドリュー・デイヴィス
演出:スーザン・ストローマン
出演:ルネ・フレミング ネイサン・ガン A・シュレイダー T・アレン
2015年1月17日

METの女王フレミングはこのシーズンはハンナですよ。

●第7作 オッフェンバック 「ホフマン物語」
指揮:イーヴ・アベル
演出:バートレット・シャー
出演:V・グリゴーロ H・ゲルツマーヴァ K・リンジー T・ハンプソン
2015年1月31日

このオペラこそMETの豪華な演出が楽しみです。

●第8作 チャイコフスキー「イオランタ」&バルトーク「青ひげ公の城」
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
演出:マリウシュ・トレリンスキ
出演:「イオランタ」A・ネトレプコ P・ベチャワ A・マルコフ
    「青ひげ公の城」N・ミカエル M・ペトレンコ
2015年2月14日

チャイコフスキーの「イオランタ」はMET初演だそうです。バルトークも新演出。

●第9作 ロッシーニ 「湖上の美人」
指揮:M・マリオッティ
演出:ポール・カラン
出演:J・ディドナート F・d・フローレス D・バルチェッローナ
2015年3月14日

ロッシーニアンとしては、これははずせない!歌手も最高だ。

●第10作 マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」&レオンカヴァッロ「道化師」
指揮:ファビオ・ルイージ
演出:D・マクヴィガー
出演:「カヴァレリア~」M・アルバレス エヴァ=マリア・ヴェストブルック J・ルチッチ
    「道化師」M・アルバレス P・ラセット G・ギャグニッサ
2015年4月25日

アルバレスの2役が楽しみ。

いつもながら舞台と演奏に加えて、インタビューにも期待しましょう。

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2014年4月 4日 (金)

ルネサンスの傑作を渋谷で見る

欧米の美術館には大規模な公共建造物としての美術館もありますが、個人的なコレクションが発展したものがコレクターの屋敷や館に展示されている「邸宅美術館」も数多くあります。
昔の貴族や上流階級の生活感あふれる空間に美術品が展示されているのは特別な雰囲気で、歴史の中で美術がどのように愛好されてきたかが、その空間から感じることができます。
イタリア・ミラノにあるポルディ・ペッツォーリ美術館はヨーロッパを代表する邸宅美術館のひとつ。
このたび東京と大阪でそのコレクションが公開されます。内覧会に行ってきました。

このコレクションはミラノの貴族ジャン・ジャコモ・ポルディ・ペッツォーリが先祖代々の財産を受け継ぎ、さらに自分の蒐集した美術品からなる一大コレクションで、そのうち約80点が来日しました。すべて日本初公開だそうです。

スカラ座を訪れると、その近所にあるのがこの美術館で、僕も何度か訪れました。中庭から玄関を入ると右手にバロック式の屋内噴水があって、そこから階段を昇っていくというあたりが邸宅ならではの魅力です。
ポルディ・ペッツォーリは武具甲冑の収集からこのコレクションを増やし、同時に邸宅にネオ・ゴシックやバロック、ロココの内装の華麗なる部屋を増築してコレクションを展示してゆきました。
残念ながらその多くの部屋は1943年の空襲において破壊され消失してしまい、現在では写真でしかその栄華をうかがえません。しかし、今回の展示会場であるBunkamura・ザ・ミュージアムでは昔の写真をうまく展示したり、カタログにも多くの写真を掲載して、オリジナルの邸宅の部屋を感じる工夫がされています。

さて、80点の展示物の中で、この展覧会のシンボル、いやポルディ・ペッツォーリ美術館のシンボルと言えるのがピエロ・デル・ポッライウォーロのテンペラ画「貴婦人の肖像」(1470年ころ)でしょう。
青空の中にくっきり浮かび上がる、貴婦人の完全なる横顔。
結いあげた髪には絹と真珠の頭飾り、ほっそりした美しい首には真珠と金の球のネックレス、その先端には大きなルビーと真珠のペンダント。深い緑のドレスの袖は花模様の装飾で彩られています。
その高貴な横顔はまぎれもない貴族の女性を表しています。真珠の白は処女性を、ルビーの赤は愛の情熱の象徴だそうで、この肖像画は描かれた女性の結婚の際に制作されたものと推定されています。
見飽きませんねぇ…。
なんという美しさ!
じ~っと見つめているうちに、横顔の女性がこっち向いて話しかけてくれる気にすらなってしまいます。
この絵は近づいたり、ちょっと離れてみたり、左右に眺める位置を変えてみたり…、とにかくいろいろな見方ができます。どの角度や距離から眺めても魅力的。朝一番のすいている時間にでかけて、たっぷり時間かけて贅沢に眺めたいです。

もうひとつ、是非ともじっくり鑑賞したいのがボッティチェッリの「死せるキリストへの哀悼」(1500年頃)です。
フィレンツェのウフィッツィ美術館に行けば「春」や「ヴィーナスの誕生」など彼の代表的傑作を見られます。しかしこの作品は、そういった華やかで穏やかで優雅な雰囲気は皆無。
ドキッとするほど見る者に強烈な印象を与えます。十字架から降ろされる死んだキリストを抱き、嘆き、泣き、失神寸前の聖母マリアや絶望する人々。その表情のドラマチックなことに加え、人々の不自然なまでの窮屈な姿勢、ショッキングな色彩。
ボッティチェッリの性格が一変したかのような凄まじい絵です。

晩年のボッティチェッリは当時フィレンツェを席巻した宗教指導者サヴォナローラの強い影響力のもとにあり、かつての作風とは一変した宗教画を描きました。
まぁ、人格が変わったと言っても過言ではないでしょうね。
この絵を見ると、人間の内面が変化することの恐ろしいまでの結末を感じる気がします。
これまた是非じっくりと時間をかけて鑑賞してください。
あなたの知っているボッティチェッリとは全く違う世界があります。

このほか、展示の最初にはポルディ・ペッツォーリが最初にコレクションを始めた16世紀の武具甲冑も展示されています。
実際の戦闘に使うものと言うよりも儀式や行進の時に身につけるものだそうで、その細かな装飾や細工は惚れ惚れするほど美しいです。
道具とは機能だけでなく、美しい美術品であることが求められた時代の産物。一見の価値ありです。

貴族趣味というと、現在ではちょっとネガティブなイメージとして使われますが、この展覧会に行くと美意識を持つことの素晴らしさを痛感します。
「美しいものを愛でて、自分も美しく生きたい…」

ポルディ・ペッツォーリの叫びが展示品のひとつひとつから聴こえてきます。

ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション

2014年4月4日(金)~5月25日(日)
Bunkamura ザ・ミュージアム
2014年5月31日(土)~7月21日(月・祝)
あべのハルカス美術館

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2014年3月30日 (日)

「つぶてソングの集い」inみやぎ

3月28日に宮城県の名取市文化会館で開催された「つぶてソングの集い」に司会で参加してきました。今年で4回目のこのコンサートは、2011年3月11日の東日本大震災の直後から、混乱と絶望の中で福島在住の詩人・和合亮一さんがツイッターで発信した「詩の礫(つぶて)」に心を動かされた作曲家の新実徳英さんが作曲したのが全12曲の「つぶてソング」。

その「つぶてソング」をさまざまな合唱団や会場のお客様と歌うのがこのコンサートです。
2011年に杉並で開催され、その後郡山、南相馬とつづき今年は宮城県の名取市。ここも大震災の津波の甚大な被災地で800名近くの方が命を失った場所です。

詩を書いた和合さんは高校の国語の先生です。
あの大震災や原発事故から3年。いまだ14万人の人が避難生活を余儀なくされています。その一方で「風化」も語られることが多くなってきました。

『福島はまだ「有事」のなかにあります。私たちは沈黙せざるを得ないことに苦しんでいます。こころのなかに「どこにもぶつけようのないもの」がある。それなのに風化は進む。ことばにならないものと向き合うことが、ますます難しくなっています。
(略)こころの奥底にあるものを表に出すにはどうしたらいいでしょう。ぼくは、例えば詩や音楽を通じてできるのではと考えています。福島市で今年1月、詩を大勢で読む群読や合唱の公演がありました。舞台に立ったのは地元の人ら150人。ぼくの<放射能が降っています/静かな夜です>といった詩は合唱曲になりました。曲が出来た直後、つらくて歌えないという方がいらっしゃいました。でも当日は、みんなで歌ったんです。ことばや歌に、時間の重みによって抑え込んでいたものがこもり、あふれ出てきたようでした。
福島の人は、誰でもトラウマ的なものを持っているんじゃないでしょうか。ただ、こころのなかに引かれた「線」を越えて、一歩進みたい方がいると思うんですよ。そのきっかけは、形にならないままの思いをことばにしようとすることなのかもしれません。だから、そのことばを何とかすくい取って、耳を傾ける文化が必要なのです』
 2014・3・6 朝日新聞より

そんな和合さんが書いた「詩の礫(つぶて)」に即座に反応したのが新実さんでした。
「僕は和合さんにお願いして『現代詩手帖』(2011年5月号)に入稿した直後のゲラをいただいて、それを見せていただいて。歌にできるに違いないという、何か予感があったんです。
その予感以前に、震災に直接関わる何かをできないかなと。作曲家なんて無力なものですから、何ができるかわからないけれどという姿勢でいたところ、≪詩の礫≫というのがあるのを知ったので、これは書かなきゃいけない、書いて、とにかくみんなで一緒に歌いたいなと思ったんですね。
それで、3曲づつつくりました。これは4回やったので、合わせて12曲になったんですけれど、とにかく早く人々に『こういう曲をつくったよ』ということを知らせられるのはユーチューブしかないと思ったんですね。それで、名田綾子さん、浜中康子さんに伴奏をお願いして、自分で歌ってしまえということで始めたのが、この<つぶてソング>です」

新実さんが作曲直後に「あなたはどこに」を歌ったユーチューブはこちら
http://www.youtube.com/watch?v=ZWJ_wTIdPPI 

3月28日の「つぶてソングの集い」には地元の名取混声合唱団のみなさんや仙台三桜高校の音楽部による女声合唱、宮城教育大学と東北大学の合同による混声合唱団、NHK仙台少年少女合唱隊、ウインドアンサンブルやテノールの佐藤淳一さん、浜中康子さんと鷹羽弘晃さんのピアノ伴奏で「つぶてソング」の中から「あなたはどこに」「夢があるのなら」「フルサト」「重なり合う手と手」「失うことは悲しい」「燃えあがろう」「なぜ生きる」「涙が泣いている」が歌われました。

同じ曲でも女声合唱と混声合唱ではまったく違った魅力が生まれてくる。
少年少女音楽隊の合唱には、大人にはない音楽の力があってビックリ!
「涙が泣いている」では、まず和合さんが詩を朗読して、次に新実さんの「歌」を演奏したのですが、詩と音楽のそれぞれの持っている力をあらためて実感しました。

コンサートの最後に出演者も客席もいっしょになって「あなたはどこに」を歌いました。
なんともいえない心のつながりを感じるエンディング。
静かで確実な感動。
震災以来、色々な場所で「音楽の力」という言葉を使いましたけれど、この会場では本当にその素晴らしさを実感。
このプロジェクトの代表でもある浜中康子さんは、こう言っています。

「記憶から消し去りたいほど辛く悲しい大惨事を、一方で『風化させないでほしい』と訴え続けなければならない被災地の人々の切ない心の内を知る時、自らの生き方を問われている思いがします」

まさにそのとおり。
音楽で何をなすべきか…音楽にかかわる仕事をする一人ととして、これからも常に考えなくてはならない問いです。

当日、コンサートの締めくくりに出演者と会場が全員で歌った「あなたはどこに」をあらためて紹介します。

「あなたはどこに」 詩:和合亮一 曲:新実徳英

あなたはどこにいますか
あなたの心は 風にふかれていますか
あなたの心は こわれていませんか
あなたの心は 行き場を失っていませんか

いのちをかけるということ
私たちの故郷に
いのちをかけるということ
あなたのいのちも わたしのいのちも
決して奪われるためにあるのではないということ

あなたはどこにいますか
あなたの心は 風にふかれていますか
あなたの心は こわれていませんか
あなたの心は 行き場を失っていませんか

詩を読んで、音楽を聴いて、そして、歌ってみませんか。

新実徳英さん指揮の合唱による「あなたはどこに」はコチラ
⇒ http://www.youtube.com/watch?v=JyNAWvUCf0A

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2014年3月22日 (土)

都立小山台、甲子園初勝利ならず

3月21日、春分の日の金曜日。甲子園の選抜高校野球が始まりました。
我が母校である都立小山台高校は大会初日の第3試合に登場。14日の抽選会での組み合わせが決まった直後、OBOGや関係者は喜んだそうです。だって開会式も見られて、連休の初日だから関西にゆっくり滞在して観戦旅行が出来る…ってね。

しかし私はこの日東京で司会の仕事があったのです。高校の同期たちは大挙して甲子園のアルプススタンドへ。でも幸いなことに、仕事が終わった直後に試合が始まりました。司会をしていた舞台から楽屋に直行。テレビをつけると試合開始直前の甲子園が映っております。すると携帯が鳴って、ブラスバンド班の同期から電話です。彼は「お前、今どこにいるの?」と尋ねる。この場合の「どこに」は甲子園のアルプススタンドのどこ?と言う意味です。僕は「ごめん!今日、俺仕事で東京なんだ。こっちで応援するわ」と答えるしかありません。電話の向こうからはアルプススタンドの大声援がガンガン響いておりました。テレビで見ても3塁側のアルプススタンドはぎっしり超満員なのが分かります。

最初だけでもテレビで見るか…と思って一人でテレビに向かいます。
初回、先攻の小山台はランナーを出しますが大胆にも盗塁を試みて失敗。福島監督積極的です。その裏、ピッチャー伊藤の立ち上がりも上々。一回が終わってスタンドで校歌斉唱。懐かしい校歌が歌詞と共に画面から流れてきます。
小山台での毎日は、今思い出してもかけがえのない素晴らしい日々でした。クラスや班活動(小山台ではクラブ活動を班活動と呼んでいるのです)、学校行事の数々…。良き友達や先生との思い出やら失恋やら勉強の工夫やら……そんな全てが濃厚な感動と共に心に染みついている。甲子園の校歌を聴いて、楽屋でひとり校歌斉唱していたら不意に涙がこぼれそうになってしまいました。
やっぱり校歌って良いものですね。

でも、相手の履正社高校は4年連続で春の甲子園に出場している強豪です。
二回に満塁からピッチャー伊藤君の押し出しで先制点が入ると、その直後に満塁ホームランを浴びてこの回一挙5点とられました。三回~五回は無失点だったものの毎回の四死球。そして六回に3点、七回に1点、八回にも2点で合計11失点。溝田投手のノーヒットノーラン達成に注目が集まる中、最終回の攻撃で代打の竹下君に内野安打が出て、なんとかノーヒットノーランは阻止。一方的な試合展開ではありましたが、小山台の意地みたいなものを感じる内野安打でした。

最初だけテレビで観戦し、そのあと楽屋に長居出来ないので車を運転しながらラジオを聴いていました。母校のアルプススタンドからは常にブラスバンドや大声援が送られていて、熱い応援が最後まで続いているのを実感。
現役生も卒業生も家族も関係者も一緒になった心のつながりを久しぶりに感じましたよ。
そういう経験をさせてくれた野球班の現役生に、あらためて感謝したいです。

ありがとう!

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2014年3月21日 (金)

ベルカントスペシャル2014

イタリアの華、メゾソプラノのマリーナ・コンパラートを迎えてのコンサート、無事終了。ホッとしています。

「マリーナ・コンパラートを迎えて」
2014年3月18日 ヤマハホール 19時開演

 

モーツァルト ~歌劇 「フィガロの結婚」より~
「恋とはどんなものか御存知の御婦人がた」

 

ロッシーニ ~歌劇「セビーリャの理髪師」より~
「おいらは街の何でも屋」
「貴女が私の名前を知りたければ」
「万能にして不思議な力を持つ」
「今の歌声は」
「それじゃ 私じゃないの」

 

「嵐」の音楽
「ああ、なんという思いがけない打撃」
「もう逆らうのは止めるんだ」
「このような幸せな結びつきは」

 

~アンコール~
ビゼー 歌劇「カルメン」より セギディーリャ
ビゼー 歌劇「真珠採り」より 聖なる神殿の奥深く
サン・サーンス 歌劇「サムソンとデリラ」より あなたの声に私の心は開く

 

メゾソプラノ:マリーナ・コンパラート
テノール:中井亮一
バリトン:須藤慎吾
エレクトーン:渡辺睦樹
御案内:朝岡聡

深い感動があるコンサートでした。
2006年以来何度かオペラの舞台を見て、「一度彼女のような歌手を招いてコンサートをやってみたい」と思っていた私にとって夢がかないました。その意味でも嬉しかったのですが、コンパラートの歌声やリハで見せてくれた素顔は、世界のオペラの舞台で活躍している人間の強さと底力を実感させてくれました。これは客席で聴いているだけでは決して経験できないもの。出演交渉からプログラム選考、宿の手配やプログラムのデザイン、舞台の演出や照明などすべて自分でやりましたが、それだけの価値はあったと思えるコンサートでした。そういう事が出来た事に感謝!出演者に感謝!!お客様に大感謝!!!ありがとうございました。

実はこの日、ゲネプロ開始前にコンパラートから「頭が痛くてリハに遅れて行く」とのメッセージが届きました。え~~~っ!?突然の体調不良!どうしよう!まさか、キャンセルってことはないよな?…。不安がむくむくと頭をもたげましたよ。何と言っても1カ月以上の旅生活して、そのまま日本に来てるんですからね。疲労もピークじゃないかと思いました。でもプロですね。小1時間遅れはしたものの、ちゃんとリハに参加して舞台の一夜タイミングを確認。ホールの響きも確かめてくれました。本番が近づくにつれて表情に精気がみなぎり、会話する声も生き生きしてくるのが分かる。不思議にして強力な舞台人のアドレナリンですかね。

午後7時。いよいよコンサート開演です。
当たり役としているケルビーノとロジーナのプログラム。水色のドレスを身につけた彼女は、それこそ縦横無尽に歌ってくれます。歌と演技がごく自然にひとつになっているんですね。リハの時からそうですが、そんな彼女の存在に男声歌手陣も大いに刺激を受けてノリノリで歌い演技する。毛利元就の「3本の矢」じゃありませんが、1+1+1=3ではなくて10くらいになる凄さ。芸術の上昇気流が3つ人まとまりになった時の勢いをこれほど感じる舞台もなかなかありません。コンパラートのソロ「今の歌声は」も、舞台に用意した椅子一つと便箋とペンを小道具にファンタジックな舞台に仕上げていました。そのセンスはオペラ女優ならではのもの。味のある落語家が手ぬぐいや扇子を使って蕎麦食いや様々な場面を演じるのと同じです。そこに卓越した歌唱が加わるから素晴らしいのなんの。

テノール中井亮一、バリトン須藤慎吾のお二人もエンジン全開。
そこに渡辺睦樹さんのエレクトーンが惚れ惚れするようなオーケストラサウンドを加えてくれるので、プログラムが進むにつれてヤマハホールの熱気はどんどん増していきました。

アンコールの3曲がまた素晴らしく、最初のセギディーリャはもともとコンパラートのソロで歌う予定が、リハの時に「せっかくテノールの亮一がいるんだから、ホセも加えたオリジナルに近いバージョンでやりたい」と彼女が提案して、舞台には中井さんとコンパラートの2人が登場。これも演技しながらの歌でやんやの喝采です。
つづく「真珠採り」の二重唱は壮麗さと気品にあふれた舞台になりました。ここは照明にも凝ってもらい、神殿の柱を彷彿とさせる光の柱を背景にしながら男声が重なる音楽空間となりました。心震えました。

そして最後はコンパラートによる「あなたの声に私の心は開く」。ゆったりとたっぷりフレーズを重ねてゆく彼女の声は、妖艶さとともに優しさや愛の本質を感じさせる熱さに満ちていて、本当に涙が出るような歌。私の友人も、エレクトーン渡辺さんの譜めくり担当さんも滂沱の涙となりました。客席の男性は皆サムソンになってしまったのでは?と思うような圧倒的な迫力でした。この歌声は一生忘れられない。聴けて良かった…。本当に…。

かくしてコンサートは終了。
去年の11月から準備を始めて、色々しんどいこともありましたが終わってみればかけがえのない良き思い出をゲット出来ました。どんなにハードでも求められる場所があれば単身出かけて、己の持てる力の全てを出しきって観客を酔わせる…。コンパラートの素顔を観察していると一流の芸術家が持っているタフネスと行動力、使命感のようなものを強く感じて大いに学びました。ぶれない、迷わない、信じるままに進む。素晴らしき歌声とともにそれを感じられたのが嬉しい体験でした。

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